猫のウイルス病シリーズ第2回は、猫カリシウイルス感染症についてです。
猫カゼの一因として知られる猫カリシウイルス感染症は、くしゃみや鼻水だけでなく、口内炎や舌の潰瘍によって「食べたいのに食べられない」状態を招くこともあります。
一見すると軽い猫カゼのようでも、株の違いや猫の体調によっては重症化することがあるため、注意が必要です。
目次
【猫カリシウイルス感染症】
猫カリシウイルス(FCV)による感染症で、猫ヘルペスウイルス、猫クラミジアとあわせて上部気道感染症、いわゆる『猫カゼ』と呼ばれる症状を引き起こします。
FCVは感染力が強く、特に同居猫のあいだで広がりやすいウイルスです。そのため、多頭飼育の環境では特に注意が必要です。
症状
猫カリシウイルス感染症の症状は、比較的軽く回復するケースもあれば、重症化して命に関わるケースもあります。まずは、どのような症状が見られるのかを確認しておきましょう。
飼い主さんが不安になりやすいのは、「ただのくしゃみや鼻水なのか、それとも重症化のサインなのか」がわかりにくい点です。見た目が軽そうでも、食欲や元気の低下がみられる場合は注意が必要です。
特に注意したいのは、くしゃみや鼻水に加えて、食欲低下や元気消失、口の痛みが目立つ場合です。
① 弱毒株
- 口内炎
- 目やに
- 鼻水
- くしゃみ
- 食欲不振
- 舌の水疱、潰瘍
症状は2~3週間程度で回復します。
② 強毒株
- 発熱
- 皮膚潰瘍
- 頭部の浮腫
- 肝臓病変
- DIC
- 多臓器不全
強毒株は成猫で重症化しやすいのが特徴で、33~50%で死亡するといわれています。
弱毒株では、くしゃみや鼻水、口内炎など、いわゆる猫カゼに近い症状が中心です。一方で強毒株では、発熱や皮膚潰瘍、多臓器不全など、全身に及ぶ重い症状がみられることがあります。
また、弱毒株でも幼弱な子猫や免疫が低下している猫の場合、カリシウイルスだけでなく細菌による二次感染・混合感染によって、症状が悪化することがあります。
感染経路
感染を防ぐためには、どのようにうつるのかを知っておくことが大切です。特に多頭飼育では、日常の接触が感染拡大につながることがあります。
感染猫の鼻汁や目やに、唾液を介して経鼻・経口感染します。
カリシウイルスは扁桃腺の上皮に潜伏感染し、キャリアーとなることがあります。そのため、免疫のバランスが崩れると、再び症状が現れることもあります。
診断法
見た目だけでは猫カゼとの区別がつきにくいこともあるため、必要に応じて検査で確認することがあります。
特に、症状が長引く場合や、ほかの感染症との区別が必要な場合には、検査を行うことで治療方針の参考になります。
臨床症状から推測することがほとんどですが、カリシウイルスの感染をしっかりと見つけるためには、PCR検査や抗体検査などを行うこともあります。
治療法
猫カリシウイルス感染症では、ウイルスそのものを直接なくす特異的治療よりも、症状をやわらげながら体力を支える支持療法が中心になります。
特異的な治療法は限られますが、症状に応じた支持療法によって回復を支えることは可能です。
支持療法の内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 脱水補正のための輸液療法
- 栄養補給
- 痛みや炎症緩和のための非ステロイド系抗炎症剤の投与
- インターフェロン(IFN-ω)
また、前述のように細菌による二次感染・混合感染を防ぐために、広域抗生物質を使用する場合もあります。
口が痛い猫への食事の工夫
飼い主さんが特に困りやすいのが、「食べたそうなのに食べられない」という場面です。FCVでは、口内炎や舌の潰瘍によって食事そのものがつらくなることがあります。
そのため、治療とあわせて、猫が少しでも食べやすいように食事内容を工夫することも大切です。
- ドライフードよりもやわらかいウェットフードを試す
- ぬるま湯でふやかして口当たりをやさしくする
- 少し温めて香りを立たせ、食欲を刺激する
- 粒が大きいもの、かたいもの、刺激の強いものは避ける
特に注意したいのは、「食べたそうにするのに食べられない」「水を飲みたがらない」といった様子です。こうした変化は、口の痛みや脱水が進んでいるサインの可能性があります。
食べる量が減ると体力の低下につながるため、水分補給とあわせて栄養をしっかり確保することが重要です。
自力で十分に食べられない場合には、早めに動物病院へ相談し、必要に応じて栄養補助や追加の支持療法を検討してもらいましょう。
診断後48時間で飼い主がすること
診断直後は、何を優先して見ればよいのか迷う飼い主さんも少なくありません。最初の48時間は、症状の変化を丁寧に観察することが大切です。
特に最初の48時間は、次の点を丁寧に確認しましょう。
- 食欲
- 水分摂取量
- 呼吸の様子
- 発熱の有無
- よだれ
- 鼻水・目やにの状態
また、多頭飼育の場合は、感染拡大を防ぐために、できる限り食器・トイレ・寝床を分け、接触を最小限にすることが望まれます。
猫が落ち着いて休める静かな環境を整え、無理な食事や過度な接触によるストレスを避けることも大切です。
もし、まったく食べない、水も飲まない、呼吸が苦しそう、ぐったりして動かないなどの様子が見られる場合は、早めに再受診を検討してください。
特に子猫や免疫が低下している猫では、短時間で状態が悪化することもあるため注意が必要です。
注意事項
FCVは環境中で非常に耐性であるため、約1か月間感染性を保持しているといわれています。
そのため、生活空間や食器などは、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒することが大切です。
予防法
予防のためには、ワクチン接種に加えて、日頃の生活環境や体調管理にも気を配ることが大切です。
猫汎白血球減少ウイルスと同様、FCVもワクチンでの予防が可能です。
幼猫の時にしっかりとワクチネーションを行っておくことが予防につながりますが、必ずしもFCV感染を防げるというわけではありません。
そのため、免疫のアンバランスが起こらないよう、日頃からストレスを与えないようにすることや、食事や生活環境を整えることも発症予防の一助になると考えられます。
ワクチン接種をしていても感染することがある理由
飼い主さんが疑問に感じやすいのが、「ワクチンを打っていたのになぜ感染したのか」という点です。
猫カリシウイルス感染症はワクチンによって予防が期待できますが、ワクチンを接種していても感染を完全に防げるわけではありません。
これは、カリシウイルスにさまざまなタイプ(株)が存在し、ワクチンだけではすべての株に十分対応できない場合があるためです。
ただし、ワクチンには感染そのものを完全に防ぐだけでなく、発症した場合の症状を軽くしたり、重症化を防いだりする役割が期待されています。
そのため、ワクチン接種は決して無意味ではなく、猫の健康を守るために重要な予防手段のひとつです。
ワクチン接種に加えて、日頃からストレスを減らし、十分な栄養や休養を確保し、免疫のバランスを整えることも発症予防には大切です。
まとめ
猫カリシウイルス感染症は、軽い猫カゼのように見えても、口の痛みや食欲低下、脱水、重症化などに注意が必要な感染症です。
特に「食べたそうなのに食べられない」「水を飲まない」「ぐったりしている」といった変化は、早めに対応したいサインです。
ワクチンや生活環境の見直しに加え、気になる変化を見逃さず、早めに動物病院へ相談することが猫を守る第一歩になります。
ご不明な点がございましたら、お問合せ下さい。
監修獣医師:林美彩 所属クリニック:chicoどうぶつ診療所
代替療法と西洋医学、両方の動物病院での勤務経験と多数のコルディの臨床経験をもつ。 モノリス在籍時には、一般的な動物医療(西洋医学)だけでは対応が困難な症例に対して多くの相談を受け、免疫の大切さを痛烈に実感する。
ペットたちの健康維持・改善のためには薬に頼った対処療法だけではなく、「普段の生活環境や食事を見直し、自宅でさまざまなケアを取り入れることで免疫力を維持し、病気にならない体づくりを目指していくことが大切である」という考えを提唱し普及活動に従事している。
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